まつ毛を伸ばす薬「グラッシュビスタ」が、9月にアラガンから発売されました。海外では、「LATISSE」という商品名で使用されており、まつげが少ない状態(睫毛貧毛症:しょうもうひんもうしょう;睫毛とは、まつ毛の表記で、しょうもうと読む)の治療として用いられてきました。日本でも、厚生労働省から承認を受け、医師の処方の元で使えるようになりました。
まつ毛が伸びる薬を、一体どのような病気に使うのでしょう?まつ毛が少なくなる状況というのは、抗がん剤によるがん化学療法の副作用(全身性の脱毛の一部)、円形脱毛症などの皮膚疾患などで起こります。また、加齢によってもまつ毛の数は減少することがあります。薬剤開発元のアラガンは、この中でも化学療法におけるまつ毛の脱毛は、患者さんの心理状態を不安定にさせ、生活の質を低下させる症状であると考えました。このような患者さんの外見上容姿を整え、精神的負担を軽減することを目的に、アラガンはまつ毛の成長を促進する薬剤を開発しました。
グラッシュビスタの名前の由来;
グラッシュは、Growth of Eyelash(睫毛の成長)に由来(グラッシュビスタのインタビューフォームより)
薬の効果、そのままですね。
ビスタはVista;辞書では「眺望、光景」を表す言葉。
グラッシュビスタの薬効成分である「ビマトプロスト」は、まつ毛の成長を促進し、まつ毛を太くする作用を示します。この作用は、ビマトプロストを緑内障(目の眼圧が上がることで、視神経が傷害され視力が低下する病気)の治療薬として使用するときに、患者さんのまつ毛が伸びるということから発見されました。
この辺りの経緯については、下記リンクをご参照下さい
薬作り職人のブログ まつげを伸ばす薬「LATISSE」
有機化学美術館 まつ毛が伸びる薬・グラッシュビスタ日本上陸
まつ毛が伸びる効果は、海外、国内での臨床試験において確認されています。がんの化学療法を受けた患者さんを対象とした、日本国内での臨床試験結果では薬剤の使用開始から4ヶ月後のまつ毛の長さについて、薬剤群はプラセボ群に対し統計学的に有意な差を示しました。
ただし、グラッシュビスタの薬効成分であるビマトプロストには副作用も報告されています。 緑内障の治療薬としてビマトプロストが使われる時には、点眼薬として使用されていたのですが、目の周りの皮膚や虹彩(眼球の色がついている部分、瞳)が着色するという副作用が報告されています。グラッシュビスタでは、このような副作用を防ぐために、点眼薬ではなく専用のアプリケーターを用いて、まつ毛の周囲の皮膚に薬液を塗布するようになっています。それでも、グラッシュビスタの臨床試験では、皮膚の着色が報告されているので、気をつける必要があります。
今回、グラッシュビスタに対しては健康保険が適応されていません。その理由はよくわかりませんが、もし、医療行為によってまつ毛が少なくなるのを改善することがあくまで「美容」の観点でしか見られていないとすれば、もう少し考慮されても良かったのではないのかな、とも思います。
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Author:薬作り職人
十数年、新薬の研究に携わる研究者(薬理系)でした。2012年4月から、企画職として、新薬のアイデア作りなどの仕事に取り組むことになりました。
薬学生向けの季刊誌MILで、「名前で親しむ薬の世界」「薬作り職人の新薬開発日記」って言うコラムを連載してました。
観光地で売ってるミニ提灯集めてます。妻子持ち(2児の父)、嫁さんからぐうたら亭主と呼ばれます。
薬&提灯 詳しくは
病院でもらった薬の値段
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お薬の名前の由来
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ミニ提灯データベース
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