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マイクロスコープからナノスコープへ 2014年ノーベル化学賞 はてなブックマーク - マイクロスコープからナノスコープへ 2014年ノーベル化学賞

今年のノーベル化学賞は、エリック・ベツヒ氏(アメリカ、ハワード・ヒューズ医学研究所)、シュテファン・ヘル氏(ドイツ、マックスプランク研究所)、ウィリアム・モーナー氏(アメリカ、スタンフォード大学)の3名が受賞しました。受賞理由は、「超解像度蛍光顕微鏡の開発」、光学顕微鏡の理論的限界を越えた解像度を持つ顕微鏡を開発した業績が対象となりました。ノーベル賞の解説資料では、「マイクロスコープがナノスコープに なった」という面白い表現で、この業績を紹介しています。マイクロスコープは英語で「顕微鏡」、マイクロは100万分の1、ナノは10億分の1を表します。今までの顕微鏡が、ものすごく細かいものが見えるよう進化した、というニュアンスでしょうか。

 

プレスリリース
http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/chemistry/laureates/2014/press.html

公式サイトでの解説(popular infomatuon;英語だけどオススメ)

http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/chemistry/laureates/2014/popular.html 

ノーベル化学賞に米独の3人(NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20141008/t10015244191000.html

 

顕微鏡といえば、実験室で細胞とか動物・植物の組織標本を観察した覚えのある方も多いと思います。生物学の世界では、顕微鏡は欠かすことが出来ないツールです。生き物の仕組みがどうなっているのか、というのを知ることは、ストレートに言うと、生き物の構造がどうなっているのか、生き物はどのような姿をしているか、を知ることです。構造を知ることで、その機能・働きが理解できる、といってもいいでしょう。

 

理科の授業で顕微鏡を覗いて、生き物が細胞の集まりで出来ていることを実感した方も多いと思います。このような用途に用いられる顕微鏡は、光学顕微鏡とよばれる種類の顕微鏡で、普通の光(可視光とよばれます)を対象に当てて観察します。薄い切片を観察することが多いですが、生きている細胞や微生物を観察することも可能です。

 

光学顕微鏡には「ある一定以上の解像度を持たせることができない」という技術的限界があるとされてきました。解像度とは、異なる2点を「異なる」と区別できる能力のことで、解像度が不足すると異なる2点を2点と認識できなくなります。顕微鏡では、用いる光の波長によって得られる最大の解像度は変わってきます。この解像度の限界は、解像度の算出式を導き出した科学者の名前を取り、アッベの顕微鏡の分解能の限界( Abbe’s diffraction limit )と呼ばれています。光学顕微鏡の場合、解像度の限界は0.2マイクロメートル(1000万分の2m)であり、これは細胞内小器官(細胞の生命活動の場である、ミトコンドリアのような構造)の大きさよりやや小さいくらいです。つまり、光学顕微鏡でミトコンドリアより小さい物を見ようとすると、解像度が足りなくてぼやけてしまい観察することが出来ません。

2014 10 08 Fig1

「アッベの顕微鏡の分解能の限界」のイメージ。他の生物やウイルスとの比較
公式サイト資料から) 

解像度が足りないのをカバーするには、観察対象に当てる光の波長を短くする事が必要です。実際、電子顕微鏡では、ものすごく波長が短い「電子線」を用いることで、光学顕微鏡よりも高い解像度を実現することができます(ちなみに、電子顕微鏡の発明に対しては、1986年にノーベル物理学賞が与えられています)。しかし、波長が短いということは、光のエネルギーが非常に高くしなければいけないということでもあり、生きている細胞を観察するには適していません(あまりに高いエネルギーを与えると細胞が壊れてしまいますし、電子顕微鏡では真空下の観察が必要です)。

 

生物学の研究においては、生きている細胞、生きている組織の姿をそのまま見たいという欲求は非常に強いものがあります。今回のノーベル賞受賞理由となった「超解像度蛍光顕微鏡の開発」は、その望みを「蛍光」という化学の道具を用いて見事に叶えた、顕微鏡技術のブレークスルーといえます。

 

今回の受賞対象となった「超解像度蛍光顕微鏡」の技術は2種類あります。ひとつは、ヘル氏によるSTED(誘導放出制御) 顕微鏡、もうひとつは、ベツヒ氏とモーナー氏によってそれぞれ開発された、1分子蛍光顕微鏡です。

 

いずれの技術も、蛍光物質を用い、極めて微小な範囲での蛍光を検出することで、高解像度を実現しています。蛍光物質は、ある特定の波長の光を当てると光る物質です。有名な蛍光物質としては、蛍光を出す能力を持つタンパク質GFP(下村脩が発見、ノーベル化学賞受賞)があります。今回、細胞を見るためには、GFPのような蛍光タンパク質を用います。例えば、細胞や微生物に蛍光タンパク質をつくらせたり取り込ませたりした後に、蛍光を発する波長の光を当てることで、その蛍光物質がある場所がわかります。いずれの高解像度蛍光顕微鏡の技術においても、蛍光タンパク質がどこにあるかを知ることで、細胞や微生物の全体像をつかむというアイデアが用いられています。

 

STED(誘導放出制御) 顕微鏡では、対象に向かって蛍光物質が光る波長の光(Exciting laser beam)を当てるのですが、その光の周りに蛍光が消える波長の光(Quenching laser beam)を同時に当てます。すると、蛍光物質が光る波長の光だけが絞りこまれ、非常に狭い範囲での蛍光を検出することが出来ます。そして、この作業を繰り返していけば、細胞の構造に含まれる蛍光タンパク質の分布(=蛍光タンパク質が発現する対象の形)が浮かび上がってきます。こうやって得られる対象の像の解像度は、「アッベの顕微鏡の分解能の限界」を超えることが可能です。異なる2点を一度に見るからダメなのであって、1点1点をたどって全体像を再構成すればよい、というイメージですね。

2014 10 08 Fig2

STED顕微鏡のイメージ。ビームを細めて、一点一点なぞっていくと姿が浮かび上がる。
公式サイト資料から) 

一方、1分子蛍光顕微鏡は、蛍光タンパク質の1分子を見るという手法を使います。対象に弱い光を当てて、対象の上にある蛍光タンパク質の一部だけを光らせます。対象の上にある蛍光タンパク質の一部だけが光るので、その蛍光タンパク質同士の距離は「アッベの顕微鏡の分解能の限界」よりも大きくなると考えられ、対象の形は複数の蛍光(の点)として表すことが可能です。この作業を何度も繰り返すことで、対象全体を蛍光の点の集合として表すことが出来ます。STEDが対象の上をなぞるイメージとすれば、1分子蛍光顕微鏡は、何枚も何十枚も写真を撮ると全体像が浮き上がってくる、というイメージです。

2014 10 08 Fig4

1分子顕微鏡のイメージ。蛍光タンパク質の位置を1分子単位で取り込み、同じ視野で何枚も写真をとってそれらを重ねあわせることで全体像をつかむ。
公式サイト資料から) 

 

2014 10 08 Fig5

左が通常の蛍光顕微鏡での観察像、真ん中が同じ視野を1分子顕微鏡 で観察した像。解像度が上がり、ヨリ細かい部分まで見えている事がわかります。
公式サイト資料から)  

 

いずれの手法も、一度に対象を見るのではなく、細かい部分の積み重ねで全体をつかむという、いわば「積分」の感覚で物の形を把握します。私達が通常イメージする顕微鏡とは大分異なりますが、そういう発想の転換があるからこそ、今まで見えなかったものが見えてくる、ということなのでしょう。

 

 

 

 

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[ 2014/10/08 22:07 ] お薬作りの日記 | TB(-) | CM(0)
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Author:薬作り職人
十数年、新薬の研究に携わる研究者(薬理系)でした。2012年4月から、企画職として、新薬のアイデア作りなどの仕事に取り組むことになりました。

薬学生向けの季刊誌MILで、「名前で親しむ薬の世界」「薬作り職人の新薬開発日記」って言うコラムを連載してました。

観光地で売ってるミニ提灯集めてます。妻子持ち(2児の父)、嫁さんからぐうたら亭主と呼ばれます。


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