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コンピュータで分子の形を見るー2013年ノーベル化学賞 はてなブックマーク - コンピュータで分子の形を見るー2013年ノーベル化学賞

今日は、ノーベル化学賞の発表日。化学というとフラスコやビーカーを使った実験を思い浮かべます。しかし、今年のノーベル化学賞の舞台となったのは、コンピューターを用いた化学、「計算化学」とよばれる分野です。計算化学は薬作りの世界においても用いられているのですが、今回の受賞内容に関しては知らなかったことも多いので、ノーベル賞サイトにある解説を読んでみました。

 

The Nobel Prize in Chemistry 2013 - Advanced Information


 

「分子についての学問」である化学においては、「分子の形を見る」というプロセスが欠かすことが出来ません。分子の形を知るための実験手法としては、X線回折構造解析やNMR(核磁気共鳴法)と呼ばれる方法があります。その一方、計算化学では、分子の形を「理論に基づいた計算」で求めます。

 

今年度のノーベル化学賞は、大きな分子の構造・分子どうしの相互作用を、コンピュータの力を用いた計算で、できるだけ効率良くかつ正確に「見る」ための手法を見出した功績に対して与えられました。受賞したのは、マーティン・カープラス教授(ハーバード大学、米国)、マイケル・レヴィット教授スタンフォード大学、米国)、アリー・ウォーシェル教授(南カリフォルニア大学、米国)の3人です。

 

The Nobel Prize in Chemistry 2013 - Press Release

 

 

 

分子の形を計算によって「見る」ためには、分子を構成するそれぞれの原子の位置を計算式で表さなくてはいけません。原子の位置は、原子間に生じる化学結合(例えば共通結合とよばれる結合)や、2つの原子が引きあったり反発したりする力(例えば、クーロン力やファンデルワールス力という力)で決まります。

 

化学結合や原子間に働く力を数式で表し、分子の形に落としこむには、2つの方法論があります。

 

まず、古典力学(「目に見える身の回りの世界」での物理現象を扱う力学)を用いて行う方法。これは、例えるなら、分子を原子という「ボール」と化学結合という「棒」から出来ていると考える方法です。計算において考慮すべき要素が少なく、コンピュータにとっては非常に計算しやすい方法です。ただし、古典力学はあくまで「目に見える世界」でのお話。「目に見えない極小の世界」における原子どうしの関係を知るのに古典力学の手法を用いるのは、あくまで計算をしやすくするための近似的方法です。原子どうしの関係をきちんと知るためには、次に述べる「量子力学」を用いた方法を使う必要があります。

 

量子力学(電子や陽子のような「極小の世界」での物理現象を扱う力学)を用いて行う方法は、思い切って簡単にいうと「原子と原子の結合を電子のやりとりと考え、やりとりされている電子の位置は存在確率であらわす」というやり方です。電子の存在確率の分布=分子の形、と考えるわけです。この電子の存在確率は数式で表すことが可能です(波動関数なんて言葉を聞いたことがある人もいるでしょう)。量子力学的方法を用いると、古典力学よりもより現実に近い計算を行うことが可能です。ただし、この計算は非常に複雑で計算量も桁違いに多くなり、沢山の原子で構成される分子に対し、そのまま適応することは出来ません。

 

古典力学手法では早く計算できるけど、あくまで近似的方法にとどまる。量子力学的手法では、現実に近い計算が行えるけど、大きな分子は扱えない。そこで、古典力学的手法と量子力学的手法を組み合わせて、できるだけ効率良くかつ正確に分子を「見る」ための方法論を見つけた、というのが、今回のノーベル賞の受賞理由です。

 

例えば、タンパク質に低分子化合物が結合する様子を計算を用いて「見る」事を考えます。結合の様子を見るときに、一番注目すべきなのは「タンパク質と低分子化合物が結合する部分」です。通常、タンパク質は低分子化合物にくらべはるかに大きいので、タンパク質と低分子化合物の結合部分は全体の中のごく一部です。そこで、この「ごく一部」については量子力学的手法を用いて丁寧に計算し、それ以外のところは古典的手法(ボールと棒とみなす)で近似的に計算すると、効率よくかつ正確に分子を「見る」事ができます。この方法は、薬とタンパク質の相互作用を「見る」ために非常に役に立ちます。

 

この方法は、医薬品開発にとどまらず、さまざまな産業や基礎研究において役に立っています。その理由は、単に分子の形を「見る」だけではなく、形を見ることを通じて、化学反応がどのように進むかを「知る」ことができるからです。このように。コンピュータを「化学の世界における便利な相棒」に育て上げたという点で、今回の受賞は素晴らしい価値があると思います。

 

 

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[ 2013/10/09 21:58 ] お薬作りの日記 | TB(-) | CM(-)
 

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Author:薬作り職人
十数年、新薬の研究に携わる研究者(薬理系)でした。2012年4月から、企画職として、新薬のアイデア作りなどの仕事に取り組むことになりました。

薬学生向けの季刊誌MILで、「名前で親しむ薬の世界」「薬作り職人の新薬開発日記」って言うコラムを連載してました。

観光地で売ってるミニ提灯集めてます。妻子持ち(2児の父)、嫁さんからぐうたら亭主と呼ばれます。


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