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膵臓のβ細胞を増殖させるホルモン”Betatrophin” はてなブックマーク - 膵臓のβ細胞を増殖させるホルモン”Betatrophin”

"Betatrophin: A Hormone that Controls Pancreatic β Cell Proliferation"という題名の論文が、科学誌Cellに発表されました。

 

Cell - Betatrophin: A Hormone that Controls Pancreatic β Cell Proliferation

 この論文では、膵臓のβ細胞を増殖させるホルモン”Betatrophin”の発見を報告しています。膵臓のβ細胞は、血糖値(血液中のグルコース濃度)を下げる作用を持つホルモン「インスリン」を分泌する細胞です。糖尿病では、インスリンの働きが低下することで血糖値が長期間上昇します。血液中の高濃度のグルコースは、血管・腎臓・網膜・神経などにダメージを与え、血行障害による下肢切断、腎不全、網膜症・神経障害などの様々な合併症を起こします。糖尿病の病態には、膵臓のβ細胞が大きく関わっており、Betatrophinが示す「膵臓のβ細胞を増殖させる」という作用は、糖尿病の治療法を考える上で、非常に重要です。

 

1型糖尿病と呼ばれるタイプの糖尿病では、β細胞が何らかの原因でダメージを受け、β細胞の数が少なくなることからインスリン分泌量が低下してが血糖値が上昇します。この状態を改善するには、これまで毎日インスリンの皮下注射をするしかありませんでした。もしBetatrophinのような作用をもつ薬剤がつくれれば、β細胞の数を増やすことで、外から注射をしなくてもインスリンを体内で作り出すことができるようになります。

 

ただし1型糖尿病には、β細胞にダメージを与える原因が存在しているので、この原因を取り除かないとβ細胞はいずれダメージを受けることになります。1型糖尿病では、免疫機構に異常がおこり、生体内の免疫細胞が自分自身のβ細胞を攻撃することが知られています。このような、ダメージを与える「悪役」を取り除いた上で、β細胞を増やしてやれば、1型糖尿病の根本的な治療が望めるのではないかと思います。

 

2型糖尿病と呼ばれるタイプの糖尿病では、全身の細胞でのインスリンの働きが弱くなります。インスリンのが働きが弱くなる原因としては「インスリンは分泌されるが、その作用が弱くなる」「インスリンの分泌能力が低下する」があります。

 

グルコースは細胞のエネルギー源であり、血液から細胞内に取り込まれてその役割を果たします。そして、インスリンはグルコースを細胞に取り込ませるためのスイッチを入れる役目を持っています。インスリンによる「スイッチ」がうまく入らない(つまりインスリンの作用が弱い)と、グルコースは血液中に残ったままとなり血糖値は上昇します。この状態をインスリン抵抗性とかインスリン感受性低下と呼びます。血糖値が下がらないので、β細胞はインスリンをどんどん産生しますが、スイッチは入らないままです。かわいそうなβ細胞は際限なくインスリンを作りづづけ、やがて疲れ果ててしまってインスリンを作る能力が低下してしまいます。ここまで来ると、1型糖尿病と同じ状態になってしまいます。

 

実は、Betatrophinは、インスリンの働きを低下させる薬剤(インスリンアンタゴニストS961)を飲ませて作成した2型糖尿病モデル動物から見つかりました。本来、Betatrophinは、インスリンの働きが低下していたときに、β細胞を増やしてインスリン分泌を増やすために用いられているのかもしれません。

 

2型糖尿病の場合、単純にβ細胞の数を増やすだけでは問題は解決しません。インスリンのスイッチがきちんと入るようにする薬を使いつつ、Betatrophinのような作用をもつ薬剤でβ細胞の量を増やしインスリン量を保つ、という戦略が必要でしょう。また、インスリン抵抗性があまり激しくない病態では、β細胞の働きを補助する意味でBetatrophinは有効かもしれません。

 

近い将来、Betatrophinのβ細胞増殖という作用に糖尿病の「真の原因」を抑える薬剤を合わせて使用することで、糖尿病治療に大きな変化が現れるかもしれません。

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[ 2013/04/26 21:47 ] お薬作りの日記 | TB(-) | CM(-)
 

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薬作り職人

Author:薬作り職人
十数年、新薬の研究に携わる研究者(薬理系)でした。2012年4月から、企画職として、新薬のアイデア作りなどの仕事に取り組むことになりました。

薬学生向けの季刊誌MILで、「名前で親しむ薬の世界」「薬作り職人の新薬開発日記」って言うコラムを連載してました。

観光地で売ってるミニ提灯集めてます。妻子持ち(2児の父)、嫁さんからぐうたら亭主と呼ばれます。


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