薬作り職人のブログ

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「くぼみがどのような形なのか」を知ることータンパク質X線構造解析 はてなブックマーク - 「くぼみがどのような形なのか」を知ることータンパク質X線構造解析

タンパク質の形を知ることは、薬を創りだす上で非常に大事なことです。というのも、大抵の薬は、「タンパク質のくぼみ」に入り込むことで、その作用を発揮するからです。そして「くぼみがどのような形なのか」をしることで、薬の化学構造をデザインする事が可能です。

 

例えば、様々な生理活性物質(ホルモン、神経伝達物質、ケミカルメディエーター)は、それぞれの物質に対応したタンパク質(受容体)のくぼみに入り込み、受容体の構造を変化させて生理機能を発揮させます。このように、「受容体のくぼみにうまく入り込み」かつ「その生理機能を調節できる化合物」は、薬となる素質をもっています。このくぼみにフィットする化合物をひとつ見つければ、化学合成によって構造を様々に変化させ、より強くより使いやすい(たとえば飲み薬として使用出来るような)化合物を得ることが可能です。

 

ただ、「くぼみにフィットする化合物をひとつ見つける」という作業が、実は相当しんどいのです。この作業は、数十万化合物の評価を、一度の測定で多数の化合物評価が可能な測定機械やロボットなどを使って行います(HTS: High throughput screeing とよんでいます)。数十万化合物を評価しても、ものすごく強い活性(くぼみにぴったりフィットする)の化合物がでることは稀で、活性が弱い(くぼみにゆるくしか結合しない)ものが数個引っかかる、くらいかな、という感じです。

 

ここからは、化学系研究者(メディシナルケミスト)が、くぼみによりフィットする化合物を作り出していかなくてはいけません。そのなかで、「くぼみの形がみえていること」は非常に重要です。タンパク質は、20種類のアミノ酸が特定の順序(この情報は遺伝子にコードされています)で、ペプチド結合という化学結合により連なった鎖のような分子です。タンパク質は、さまざまな性質(プラスの電気を持つ、マイナスの電気を持つ、水に溶けやすい、水に溶けにくいなど)をもつアミノ酸が数十から数千個繋がってできています。そのため、個々のアミノ酸が分子内で引きあったり反発しあったり(プラスとマイナスが引きあう)、水に溶けやすいアミノ酸が外側・水に溶けにくいアミノ酸が内側になったりすることで、立体的な構造を作り出しており、その中に「くぼみ」が存在するのです。

 

このくぼみを見るための強力な方法が「X線構造解析」です。X線構造解析をもちいると、タンパク質の3次元構造情報を手に入れることができます。生理活性物質と受容体とが結合した状態の構造(複合体構造決定)では、化合物が結合するための「くぼみ」を描き出すことが可能です。

 

例えば、アレルギー治療薬としてもちいられるヒスタミン受容体の「くぼみ」は、こんなかんじです。 

花粉症・アレルギーの発症因子の立体構造を世界で初めて解明-副作用を抑えた治療薬の探索・設計が可能に- — 京都大学
岩田想 ...

 

03

ヒスタミン受容体(H1受容体)の「くぼみ」に結合した薬剤

a)H1Rとレボセチリジン複合体
b)H1Rとフェキソフェナジン複合体のモデル構造 

上記プレスリリースから引用)

 

目の前にくぼみの形があり、形を構成するアミノ酸分子がわかっていれば、そのくぼみやアミノ酸に相性が良い分子(原子)を化合物に導入することができます。しかし「くぼみの形が見えてない」ときは、どのようなくぼみがあるかを頭の中で考えなくてはいけません。たった一つの化合物からだけでは想像できないので、沢山の化合物をつくり、活性(くぼみへの入りやすさ)を生物系研究者と一つ一つ調べて行って、くぼみの形を頭のなかで作り上げていくことになります。これは、職人芸の要素が多分に含まれる作業であり、なかなかうまく行くものではありません。

 

一方、X線構造解析を用いれば、くぼみがタンパク質のどこにあって、どのアミノ酸が主要な役割を果たしているのかがわかります。また、化合物がくぼみに入っていることがわかれば、化合物のどの部分がくぼみに入るために役だっているかがわかります。たとえ、くぼみにゆるくしか結合しない化合物しかなくても、このようなくぼみへのはまり具合がわかれば、よりくっつきやすくするにはどうしたらよいか、が、視覚的にも計算的にも理解しやすくなるのです。

 

コンピュータ内でこのようなくぼみを再現させ、コンピュータプログラムによって、コンピュータ内でぴったりくっつくような化合物を探すという方法論も最近はよく用いられます(In silico screening)。理化学研究所に設置されているスーパーコンピュータ「京」は、非常の高機能なコンピュータですが、このような用途への使用も想定されています。

 

また、X線構造解析によるタンパク質の立体構造を「手にとって見ることでより良く理解する」という試みも行われています。 

北陸先端科学技術大学院大学|ニュース|[プレスリリース]3D印刷技術を応用した新たな分子模型の作製方法を開発-複雑なタンパク質の構造、機能の直観的な理解が可能な教材、研究用ツールに応用-

 

これは、タンパク質の立体構造データを3Dプリンターで印刷し、立体模型を作ろうという試みです。「タンパク質の表面に対応する部分だけを石膏型でつくり、そこにシリコン樹脂を流しこむことでシリコン樹脂模型を作る」という方法で、柔軟性のあるタンパク質分子模型を創りだすことができるのです(通常の3Dプリンタ出力では、まるごと石膏型の模型しか作れず、柔軟性が出せません)。もちろん、化合物がくっつくくぼみを再現することができるので、くぼみと化合物のくっつき方も手と目で実際に確かめることができます。

実際の模型を紹介した動画はこちら(北陸先端科学技術大学院大学川上先生の動画です)


現在は、手に収まるくらいの大きさの模型のようですが、もう少し大きいスケールでこの模型ができると、実際の薬の開発にも使えたりするんじゃないのかな、なんて思ったりもしています。くぼみを作るアミノ酸に当たる部分に磁石を埋め込み(プラスの電気、マイナスの電気をイメージ)、強い化合物がすーっとくぼみに入る様子が体感できるんじゃないかな、とか思います。

 

目で見るだけでなく、手で触るという要素が入ってきた時に、コンピュータからは得られそうもないアイデアが化学者の頭のなかに浮かんだりすると面白いですね。

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[ 2013/03/31 20:41 ] お薬作りの日記 | TB(-) | CM(-)
 

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薬作り職人

Author:薬作り職人
十数年、新薬の研究に携わる研究者(薬理系)でした。2012年4月から、企画職として、新薬のアイデア作りなどの仕事に取り組むことになりました。

薬学生向けの季刊誌MILで、「名前で親しむ薬の世界」「薬作り職人の新薬開発日記」って言うコラムを連載してました。

観光地で売ってるミニ提灯集めてます。妻子持ち(2児の父)、嫁さんからぐうたら亭主と呼ばれます。


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