薬作り職人のブログ

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化合物の形を見るーX線構造解析のブレークスルー はてなブックマーク - 化合物の形を見るーX線構造解析のブレークスルー

「有機化合物の構造」は、薬を作る人間にとって必要不可欠な情報です。例えば、天然には薬のもとになる生理活性物質が存在しますが、私達がそれらを出発点として薬を作ろうと思っても、出発点となる化合物の構造がわからないことには手を出すことはできません。

 

目の前に有機化合物があるとして「その構造がどのようなものか?」を調べるのは、結構大変な作業です。とくに、その正体が全然不明な場合(特に、複雑な構造をした生理活性物質の場合)は、構造決定に相当の時間がかかることも多いです。化学の教科書に書かれているような「化学構造式」が、物質を見るだけで私達の目に見えるといいのですが、なかなかそういうわけには行きません。

 

世の中には沢山の「構造決定法」がありますが、その中で「私達の目で形が見える」という感覚に一番近い方法は「X線結晶構造解析」と呼ばれる方法です。X線結晶構造解析は、結晶化(化合物が規則正しく整列した状態)した化合物にX線を当て、X線の回折(X線が障害物の背後などに回り込んで伝わる現象)によってできた像から、化合物の構造を導き出す、というものです。

 

昨日、このX線結晶構造解析において画期的な方法が発表されました。東京大学の藤田教授の研究室からの報告です。これまで、X線構造解析を行うためには化合物を結晶化する必要があり、この作業が非常に大変でした(結晶化しない化合物はたくさんあります)。そういう状況で「結晶化しなくても大丈夫!」という方法を藤田教授らは編み出したのです。あらかじめ別の物質で結晶を作っておき、うまいこと化合物をこの結晶にはめ込んでしまえば、化合物を結晶化させるのと同じ」という、すごい発想です。

 

わかりやすい解説記事はこちら。 

ナノグラムの油状試料もなんのその!結晶に封じて分子構造を一発解析! - 化学者のつぶやき Chem-Station

 

 

東京大学のプレスリリースはこちら

東京大学工学部 結晶スポンジ法による極小量化合物のX線結晶構造解析:応用化学専攻 猪熊泰英助教、藤田誠教授
 

「私達の目で形が見える」という感覚のX線構造解析が「結晶化の苦労なく非常に簡単にできる」というのは、非常に便利です。薬作りでは「立体的な形を把握する」ことが重要です。平面的な化学構造式では同じに見える化合物も、立体構造では全く異なる構造であることはよくあります(このような関係の化合物を立体異性体と呼びます)。生理活性物質の場合、立体異性体が異なると生体に与える作用が全く異なることがよく起こります。生理活性物質を薬の出発点とする場合、間違った立体構造を採用してしまうことは致命的です。

 

そのため「化合物の構造を立体的な情報も含めて把握できる」X線構造解析は、化合物の真の姿を把握する事ができるという点で非常に優れたものです。構造決定にはいろんな方法があり、複数の方法の組み合わせで化合物の構造を決めることはできるのですが「化合物の立体的な形」をきっちりと決定するには、X線構造解析が最適で確実です。

 

例として、核酸の一種であるシチジンの構造について、X線構造解析で求めたものを図1に、化学構造式で描いたものを図2に示します。

Img x9301 02図1 シチジンの結晶構造(UBE科学分析センターのサイトから)

Cytidin図2 シチジンの化学構造式(Wikipediaから)

 

図1の黒い球が炭素原子、赤い玉が酸素原子、緑の球が水素原子、青い球が窒素原子を表しています。図1と図2を見比べてみると、それぞれの原子の配列が一致しており、特に図1においては各原子が3次元的に表示されている事がわかります。このようにX線構造解析では、分子の中の各原子の位置を3次元的に決定することができるので、化合物の構造を立体的な情報も含めて把握することができます。

 

今回報告された方法は、比較的小さな分子についての報告です。藤田教授のグループは、似たような方法をタンパク質のX線構造解析に適用しようと考えています。

 

共同発表:人工カプセルでたんぱく質の生け捕りに成功

 

 

 

タンパク質分子を特定の分子内に閉じ込める、という点では、今回の報告と共通した考え方です。薬の標的となるタンパク質の立体構造の情報は、薬作りの世界では何にも増して重要なもの。しかし、タンパク質の結晶化が難しい(ノウハウを持っていれば、ビジネスになるくらいのレベル)ため、なかなかデータを得ることはできません。もし、結晶化しなくてもタンパク質のX線構造解析ができるようになれば、業界の人にとっては天地がひっくり返るようなニュースでしょう。

 

今後の研究の進展に期待したいと思います。

 

 

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[ 2013/03/29 00:54 ] お薬作りの日記 | TB(-) | CM(-)
 

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Author:薬作り職人
十数年、新薬の研究に携わる研究者(薬理系)でした。2012年4月から、企画職として、新薬のアイデア作りなどの仕事に取り組むことになりました。

薬学生向けの季刊誌MILで、「名前で親しむ薬の世界」「薬作り職人の新薬開発日記」って言うコラムを連載してました。

観光地で売ってるミニ提灯集めてます。妻子持ち(2児の父)、嫁さんからぐうたら亭主と呼ばれます。


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