薬作り職人のブログ

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薬作りは「ネタをつかむスピード」を競う時代 はてなブックマーク - 薬作りは「ネタをつかむスピード」を競う時代

現在の薬作りは、「薬を作るスピードを競う時代」は終わり、「ネタをつかむスピードを競う時代」となっています。これは、薬を作るための技術革新がある程度飽和したため、薬を作るスピードはどの会社でもそれほど変わらなくなった、という事が原因です。

 

現在、薬作りにおいては、いかに早く薬作りのネタをスタートさせるか、が大事です。これは、薬作りの世界での1番乗りの重要性が非常に高まっているからです。どの会社も同じ開発スピードで薬が作れるのであれば、スタートが早いほうが1番乗りに近い、というのは極めて自然な帰結です。

 

では、なぜ、薬作りでは1番乗りの重要性が高いのでしょうか?

 

一つの病気について、同じ作用メカニズムを持つ薬剤が複数存在する、という状態は、それほど珍しいものではありません。アレルギー治療薬である抗ヒスタミン剤(H1受容体拮抗薬)や、コレステロール低下薬であるスタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)では、多くの薬剤が臨床において用いられています。

 

しかし、今世紀に入ってからの新薬については、状況がやや変わって来ました。同じ作用メカニズムを持つ薬の中で1番乗り(せいぜい2番手)を狙わない限り「薬としての成功」は望みにくい、という状況が生まれてきたのです。

 

このような状況がうまれた原因の一つとして、薬作りのための技術の進歩が挙げられます。1990年代までの薬作りにおいては、新しいメカニズムの薬が世の中に登場したとしても、1番手の薬には大抵色々な欠点がくっついてきたものでした。

 

これらの欠点を具体的に挙げるとすれば、副作用があって使いにくい、他の薬との飲み合わせに気をつける必要がある(薬物相互作用)、体内からすぐ消えてしまうので一日に何回も飲まなくてはいけない(服用回数)、などでしょうか。

 

そのため、2番手、3番手は、これらの欠点を修正していけば、1番手に対し優位を保つことができました。いわゆる「差別化」が可能となるわけです。昔の技術では、1番手の欠点を一気にすべて直すのは難しいものでした。これらの欠点を一つ一つ潰していくには手間と時間がかかるので、2番手、3番手、4番手くらいまでは、差別化のチャンスが残ってた、という感じです。

 

ところが、1990年代以降の基礎研究・創薬技術の進歩が、この状況を変えました。

 

1990年代までの基礎研究・創薬技術では、これらの欠点が何によって引き起こされるのか、それをコントロールするにはどうしたら良いのか、ということが十分わかっていませんでした。しかし、基礎研究・創薬技術の進歩は、これらの欠点の原因を一つ一つ解明し(どのような生体分子が原因なのか)、欠点を改善する(これらの欠点を効率的に評価し、改善した化合物を生み出す)ことを可能にしました。

 

そのため、近年では、新しいメカニズムを持つ新薬において、1番乗りの化合物が欠点だらけであることはそれほどありません。そのため、2番手くらいまででないと「差別化」を売りに1番手との優位性を示すことは難しくなりました。もちろん、1番手にくらべて劇的に何かが変わる状況、というのも起こりえます。例えば、本来の作用メカニズム以外に他のメカニズムを併せ持たせることで、薬としてのキャラクターをガラリと変える、という方策は可能でしょう。ただし、これは言うは易く行うは難しで、全く新しい新薬を一から作るくらいの難事業です。

 

というわけで、今の世の中、薬作りは一番乗り狙いのスピード勝負が必要となりました。

 

一番乗りを狙うという戦略の場合、プロジェクトに着手する時期、つまり薬作りのネタを思いつく時期でほとんど勝負が決まってしまいます。現在では、どの会社も薬の欠点を回避するための方法論を身に着けているので、(おなじメカニズムの薬を作る場合には)薬の開発スピード自体にはそれほど差がありません。したがって、アイデアを早く思いついたものが勝ちなのです。

 

薬作りのネタの中で公に公開されているもの(学会報告とか論文とか)は、自分の耳だけでなく業界の人に平等に届きます。なので、いかに他者が知らないネタを独自のルートで手に入れるか、というのが大事になります。いま、製薬会社が「オープン・イノベーション」と題して、大学などの研究機関と共同研究を盛んに行うようになりました。これは、他者が知らないネタをできるだけ早く取り入れようという動きの一つです(もちろん、その結果として、研究機関における基礎研究が社会的に役に立つという効用はあります)。

 

こうなると、技術の進歩というより、情報を手に入れるためのコミュニケーション能力やらコネクション、なんてのが大事になってきます。まぁ、研究というもの自体、コミュニケーションや人とのつながりが必須なもの。自分一人で孤立してすごい結果が出せるほど、研究の世界は閉鎖的なものではありません。独自のコネクションからのアイデアが、すごい新アイデアに結びつくなんてことはよく聞きます。

 

時代とともに薬作りの状況が変わったけれど、研究をメインにする仕事なんだから大事なことは変わんないよ、というだけのことかもしれませんね。

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[ 2012/12/02 21:30 ] お薬作りの日記 | TB(-) | CM(-)
 

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薬作り職人

Author:薬作り職人
十数年、新薬の研究に携わる研究者(薬理系)でした。2012年4月から、企画職として、新薬のアイデア作りなどの仕事に取り組むことになりました。

薬学生向けの季刊誌MILで、「名前で親しむ薬の世界」「薬作り職人の新薬開発日記」って言うコラムを連載してました。

観光地で売ってるミニ提灯集めてます。妻子持ち(2児の父)、嫁さんからぐうたら亭主と呼ばれます。


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