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なんでこの業績はノーベル化学賞なんだろう。 はてなブックマーク - なんでこの業績はノーベル化学賞なんだろう。

今年のノーベル賞週間も終わりました。日本では山中教授のノーベル賞受賞に盛り上がりましたが、ネットでは別の意味での盛り上がりがあったようです。

 

ノーベル化学賞の受賞者に、「生化学者」である米デューク大学のロバート・レフコウィッツ教授と、米スタンフォード大のブライアン・コビルカ教授の二人が選ばれました(参考:細胞の外から中にどうやって情報が伝わるかー2012年度ノーベル化学賞)。この受賞に関して、化学系のブロガーの方から「これって化学賞なの?」というコメントが出たのです。

 

Chemstationさん

ノーベル化学賞は化学者の手に - 化学者のつぶやき

 

 

 

受賞対象となった論文は生命科学における大変重要な発見について述べられており、膜タンパク質という難敵の構造と作用機構を明らかとした人類の偉業であることに疑いの余地はありません。詳しくはこちら。でもなんかポアンカレ予想が、ペレルマンによってトポロジーではなく微分幾何学で証明されてしまったときのような・・・釈然としないというか、肩透かしをくらったような気がするのは筆者が不勉強、了見が狭いからでしょうか。



佐藤健太郎さん

有機化学美術館・分館:ノーベル化学賞の出遅れ解説

 

 

 

このようなわけで、GPCRの研究にノーベル賞が与えられるのは納得できる――わけですが、まあ毎度のことながら「これって化学賞なの?」という疑問が頭をもたげるわけです。もちろんバイオ寄りの研究にノーベル化学賞が出るのは、今に始まったことではありません。NatureやScienceなどトップ学術誌に掲載される論文も、近年は大きく生命科学に偏っており、今最もホットな領域であることは疑いを容れません。

 しかしノーベル賞は「人類のために最大たる貢献をした人々」に与えられる、と規定されています。生命現象の解明も重要だけれど、太陽電池やLEDやプラスチックなど暮らしになくてはならない新材料群、そしてその開発を支える合成技術の研究はそれに劣るのか?我々はあまりそうは感じてませんけどね、と思ってしまうわけです。

 

今回の受賞者の研究は、いわゆる「生物系」の研究室で行う研究。「生物現象を化学的手法で解き明かす」という方法論からしても、「化学はあくまで道具」という意味で「化学賞への違和感」があるっていう意見はわかります。正直、私も「あれ、生理学・医学賞じゃないのか」という感覚がありました。

 

とはいえ、ノーベル賞の選考委員会が選んだからには、それなりの理屈はあるはずです。その理由については明示されていないようなので想像するしかありません。自分なりに、「なんでこの業績はノーベル化学賞なんだろう」と、ちょっとだけ考えてみました。

 

この問題は、結局のところ「化学と生物学(生理学や医学は生物学の一部と考えて)の違いってなんだろ?」ってところに行き着きます。化学と生物学の境界線は、いったいどこなのか。その境界線があるとして、今回の業績はその境界線のどちらに属するのか?という問題。

 

<化学と生物学の一番大きな違いは、対象を「モノ」としてみるか「生き物」(個体ではなく細胞単位での生命活動)としてみるか、の違いなのだと思います。

 

化学の世界では、新しい化合物を作ったり、未知の化合物を分析したり、化合物ができる化学反応の仕組みを解明したりします。これらの全てにおいて研究の対象は、元素記号や化学式で表される化合物という「モノ」です。

 

一方、生物学の世界では、複数の種類の細胞がどのように関わりあって臓器や個体という「生き物」の働きをつくり上げるのかを調べます(その点で言うと、分子生物学は「化学に近い生物学」というイメージです)。主役は、タンパク質とか炭水化物とかDNAとかいう個々の化合物(モノ)ではなく、「細胞と細胞との関係性が作り出す生き物」なのです。

 

今回の受賞対象である「Gタンパク質共役型受容体の研究」を簡潔に説明すると以下のようになります。

「アドレナリンがβアドレナリン受容体に結合し、Gタンパク質を介してアデニル酸シクラーゼを活性化させることで、細胞外から細胞内への情報伝達が起こる」ことを実験的に証明し、構成要素であるβアドレナリン受容体の構造を明確にした。

 

「モノ」と「生き物」のどちらが主役か。。私には、「モノ」が主役と見えてもおかしくなく思えます。「細胞と細胞の関係性」というよりは、「細胞の中でのモノとモノとの関係性」を解き明かした研究、生物と化学の境界線があるとすれば、化学の方に入っていてもおかしくはない感じ>

 

まぁ、このあたりは研究者によって様々な考え方があるのだろうと思います。私がこういう考え方をするのは、薬学というものに接してきたからかもしれません。

 

薬学というのは医学と似たような学問に見えます。しかし、決定的に違うのは、薬学は薬という「モノ」を扱うのに対し、医学はヒトという「生き物」を扱うというところです(これは、私の大学時代の恩師が口を酸っぱくして言ってたこと)。化学と生物学の境界も、似たようなものなのではないかなと思います。

 

生物学関連の発見が非常に多く、ノーベル生理学・医学賞の枠が狭すぎる、という事情はあるかもしれません。しかし、化学賞としてわざわざ生化学者を選ぶには、それなりの基本的な考え方があるのだと思います。

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[ 2012/10/18 23:37 ] お薬作りの日記 | TB(-) | CM(-)
 

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Author:薬作り職人
十数年、新薬の研究に携わる研究者(薬理系)でした。2012年4月から、企画職として、新薬のアイデア作りなどの仕事に取り組むことになりました。

薬学生向けの季刊誌MILで、「名前で親しむ薬の世界」「薬作り職人の新薬開発日記」って言うコラムを連載してました。

観光地で売ってるミニ提灯集めてます。妻子持ち(2児の父)、嫁さんからぐうたら亭主と呼ばれます。


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