薬作り職人のブログ

新薬のアイデアを考える人から見たいろんな話。

スポンサーサイト はてなブックマーク - スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

このエントリーをはてなブックマークに追加

[ --/--/-- --:-- ] スポンサー広告 | TB(-) | CM(-)

基礎科学を臨床試験に結びつけるー「ザーコリ」の場合  はてなブックマーク - 基礎科学を臨床試験に結びつけるー「ザーコリ」の場合 

5月29日、ファイザー社から新薬「ザーコリ」(主成分クリゾチニブ)が発売されました。「未分化リンパ腫キナーゼ(ALK )融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」に対する効能を有する抗がん剤です。

 

ファイザー社からのプレスリリースはこちら(5/29)。

抗悪性腫瘍剤「ザーコリ®カプセル200mg/250mg」新発売-ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんに適応

 

 

2012 06 03 1918

ザーコリの主成分(クリゾチニブ)の構造式

 

ザーコリは、がん細胞の増殖に関与するタンパク質(プロテインキナーゼ:タンパク質リン酸化酵素)の働きを阻害する薬剤です。ザーコリは、ALK融合遺伝子という遺伝子から作られる「ALK融合タンパク質」と呼ばれるプロテインキナーゼに対する抑制作用によって、がん細胞の増殖を抑えます。また、cMetと呼ばれるプロテインキナーゼの抑制作用もがん細胞抑制作用に関与するとされています。

 

ALK融合遺伝子は、2007年に自治医科大学の間野博行氏らによって発見された肺がんの原因遺伝子です。ALK融合遺伝子は、EML4(細胞内の物質移動に関わる微小管に結合するタンパク)とALK(細胞増殖にかかわるプロテインキナーゼ)という2つのタンパクをコードする遺伝子のそれぞれの一部が、遺伝子転移という現象により融合して生じたものです。間野氏らは、肺がん患者のがん細胞から、ALK融合遺伝子を発見し、この遺伝子を動物に導入すると肺がんを生じることを発見しました。ALK融合遺伝子は、がん細胞のなかでALK融合タンパク質を作り出します。

 

この発見により、2つの可能性が示されました。ひとつは、ALK融合遺伝子を有している肺がん患者さんに、ALK融合タンパク質の働きを止める薬剤を投与すれば、効果が高い治療薬が生まれる可能性があるということ。もう一つは、事前にALK融合遺伝子があることを確認することで、不必要な投薬(効果が弱いと思われる患者さんへの投与)が避けられる、ということです。

 

肺がんの中で、「ALK 融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌」の割合は「4%」といわれています。この「4%」という数字は少ないようにも思えます。しかし、抗がん剤は強い副作用が生じることも多いので、可能な限り「効果が高いと予想される患者さん」を事前に把握できることが求められます。つまり、「4%の患者さんといえども、適切な治療薬剤を届けることができる」ということは、非常に重要なことなのです。


ザーコリは、ALK融合遺伝子の発見(2007年)から、わずか4年で新薬として承認されました(アメリカでの承認は2011年8月)。新薬開発には10年近くかかるとされている状況で、なぜこれほど早く開発することができたのでしょうか。

 

ファイザー社は、もともとc-Metというプロテインキナーゼを標的とする薬剤を開発していました。その結果、ザーコリの主成分であるクリゾチニブを見出し、2006年の段階で臨床試験を行なっていました。そのタイミングで、2007年の間野氏らのALK融合遺伝子の発表が行われたのです。その後、ファイザー社はクリゾチニブのALK融合タンパク質への作用を調べ、クリゾチニブがALK融合タンパク質の作用を抑制することを実験室レベルのデータで示しました。

 

つまり、「ファイザー社は、もともとクリゾチニブという化合物を持っていたため、ゼロから新薬候補の化合物を探す必要がなく、速やかに臨床試験を行うことができた」のです。これが、ザーコリの開発スピードの速さの原因です。もし、ファイザー社がクリゾチニブを持っておらず、ゼロから化合物を作り出していたとしたら、ALK融合タンパクを標的とした薬剤の登場は、3-5年程度は遅れていたことでしょう。

 

その後は、ファイザー社は臨床試験の対象を「ALK融合遺伝子を持つ肺がん患者さん」に絞込み、開発を行いました。アメリカの新薬承認システムが柔軟で速やかな審査が可能である、という事情が、ザーコリの開発スピードを加速しました。特に、新薬にとっての最終関門である承認申請の審査のスピードはすごいです。通常の医薬品の審査期間(1−2年)にくらべ、ザーコリの審査期間は3ヶ月(事前に優先審査品目に指定されていた)。対象とする患者さんを絞り込んだため、審査がしやすかったということもあるでしょうが、やはり、この薬剤に対する期待感というのも迅速な審査の要因ではないかと思われます。

 

また、ザーコリは、アメリカでの承認から1年立たないうちに日本でも使用出来る事になりました。開発スピードの速さだけでなく、ドラッグラグ(特に抗がん剤)が問題となっている状況で、海外とのラグが短縮されたということは喜ばしいことだと思います。

 

ザーコリの開発は「最新の基礎科学の知見を、自分たちの臨床開発に反映させる」という点で、非常に優れた事例です。臨床試験の段階に入ってからでも、新薬の開発は基礎研究と大きく結びついていることを忘れてはいけませんね。

関連記事

このエントリーをはてなブックマークに追加

[ 2012/06/03 19:30 ] お薬作りの日記 | TB(-) | CM(-)
 

スポンサードリンク

この日記のはてなブックマーク数

このブログが生まれて
最近のコメント
プロフィール

薬作り職人

Author:薬作り職人
十数年、新薬の研究に携わる研究者(薬理系)でした。2012年4月から、企画職として、新薬のアイデア作りなどの仕事に取り組むことになりました。

薬学生向けの季刊誌MILで、「名前で親しむ薬の世界」「薬作り職人の新薬開発日記」って言うコラムを連載してました。

観光地で売ってるミニ提灯集めてます。妻子持ち(2児の父)、嫁さんからぐうたら亭主と呼ばれます。


薬&提灯 詳しくは
病院でもらった薬の値段
http://kusuridukuri.cho-chin.com/

お薬の名前の由来
http://drugname.onmitsu.jp/

ミニ提灯データベース
http://kentapb.nobody.jp/
でどうぞ。


本ブログに関するご質問・ご意見などはこちらまで↓
ご使用の際は、@マークを半角に直してください。

kentapb@gmail.com

トラックバック


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。
Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...