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科学記事での「マテメソ」の大切さ。 はてなブックマーク - 科学記事での「マテメソ」の大切さ。

研究発表を見るときには、「どういう方法でそのデータを出したの?」という点が気になります。これは、研究者の主張の価値を判断するのに、「研究方法」が大きな関与をするからです。

 

「研究が正しい研究方法(実験計画とか実験技術、実験条件)の元でなされたものである」ということは、発表された研究結果の価値を判断するための大前提です。そのために、学術論文等で研究結果を発表するときには、実験方法や実験材料の丁寧な記載を求められます(Material and Method、略してマテメソと呼ばれます)。

 

この項目を書く目的は、「実験結果が正しい方法によって得られたかどうかを、読者が判断できるようにする」「実験を再現して、その正しさを第三者が確認できるようにする」の2つ。マテメソがきちんと書かれていないということは、研究の価値を正しく判断できないという点で致命的です。

 

そして、第三者が研究者の研究内容を伝えるときも、このマテメソの最低限のところはきちんと伝えないといけません。そうでないと、研究内容について誤解とか不当な評価を与えてしまう可能性があるからです。もちろん、論文のような詳細な記載は必要ありませんが、ここは書かなきゃいけないという「勘所」だけは外してはいけないのです。

 

ところが、「マテメソがうまく書かれていないマスコミの科学記事」なんてのは、よく見かけます。今日見かけたのは、こんな記事。マテメソがうまく書かれてないので、内容が判断できません。

 

トマトで「酔い覚まし」 アサヒとカゴメ共同研究 - 47NEWS(よんななニュース)


お酒を飲むときにトマトを一緒に食べると、血中アルコール濃度が低下する―。こんな結果が、アサヒグループホールディングスとカゴメの共同研究で明らかになった。トマトが体内の酵素を活性化させる。両社が25日発表した。  

 

研究で行った実験では、トマトジュース缶3本(約480ミリリットル)と焼酎約100ミリリットルを同時に飲んだところ、トマトジュースを飲んでいない場合と比べて、血液中のアルコール濃度が約3割低下することが確認された。体内にとどまるアルコール量が約3割減少した計算となる。

 

この記事では、「トマトジュースと焼酎を同時に飲むと、トマトジュース(の成分)によって、血中アルコール濃度が下がる」と書かれています。しかし、この文章だけでは、この結論を支持することはできません。

 

その理由は「トマトジュースを飲んでいない場合と比べて」の部分にあります。この部分で「トマトジュースを飲んでいない場合」がどのような条件なのかが書かれていないので、結果が正しいのかどうか判断できないのです。

 

この実験では、「トマトジュース480mLと焼酎100mLを同時に飲んだ時」と「トマトジュースを飲んでいない場合」を比較しています。この「トマトジュースを飲んでいない場合」というのをどのように解釈するかが問題です。

 

もし「トマトジュースを飲んでいない場合」を「焼酎100mLだけを飲む」と解釈するならば(そして、それは解釈の可能性としておかしくはない)、「トマトジュースによって」と言い切ることはできません。

 

この実験では、「焼酎100mLとトマトジュースを480mLを同時に飲む」状況を作っています。これだけ多量のトマトジュースを飲むと、焼酎はトマトジュースによって薄められ、アルコールの吸収量が変わる可能性があります。また、消化管の中の液体量が非常に多くなるので、それだけでアルコールの吸収スピードが落ちる可能性があります。もし、この可能性が正しいのなら、トマトジュースは「成分」によってアルコール量を下げるのではなく、「たくさんの量を飲んだから」アルコール量を下げたことになり、研究者の主張は成り立たなくなります。

 

このような場合、「トマトジュースを飲まない場合」という状態をつくるには「焼酎100mLと水480mLを飲む」状況を作ることが必要です。「トマトジュースを多量に飲んだ時のアルコール吸収量」についての考察をするには、「トマトジュースでないものを大量に飲んだときのアルコール吸収量」と比較する必要があるのです。単に焼酎を消化管の中で薄めた時と比べてもアルコール吸収量に差があるのであれば、トマトジュース(の何らかの成分)によってアルコール吸収量が低下するという考察が可能になります。

 

このように、「焼酎100mLと水480mLを飲む」状況を作ることを「対照をとる」といいます。「対照」という考え方は、科学の世界では、非常に基本的な考え方です。このトマトジュースの研究についても、おそらくプロの研究者が行った実験であれば、必ず対照が取られているはずです。

 

まさか対照をとってないことはないよな、ということで、カゴメの公式サイトのプレスリリースで確認しました(元記事にはリンクが貼られていませんでした)。

 

カゴメ株式会社 > 企業情報 > ニュースリリース > 2012年 > アサヒグループ、カゴメ共同研究トマトが飲酒後の血中アルコール濃度を低下させることをヒトで確認~酔いの

 

ヒトにおいてトマトジュース缶3本(約160ml×3本)と焼酎甲類(ストレート約100ml)の同時摂取試験を適正飲酒量にて実施したところ、トマトジュースを飲んでいない場合(対照として水と焼酎甲類を摂取)と比較して、血液中のアルコール濃度が顕著に(最高血中濃度として約3割)低下することを確認しました。

 

 (対照として水と焼酎甲類を摂取)という記述があるので、たしかに対照が取られていることがわかります。この表現があるだけで、この研究結果に対する評価はガラリと変わります。マテメソがきちんと書かれていれば、研究結果の評価もきちんとすることができるのです。

 

実は、この研究についてのマスコミの記事をツイートした時には、この結果に疑問を抱くレスポンスをいただきました。それは、「マスコミの記事の中に対照についての記述が書かれていないため、「トマトジュースの量」が影響しただけではないか」というものでした。私は、「研究の大前提として対照が取られているもの」だと思い込んでいたのですが、言われてみれば対照を取ったことが明示されていない以上、「単なる量の影響」という読者の解釈も問題のないものです。

 

「対照」について書かれていないだけで(しかも、自分たちの出したプレスリリースにはきちんと書いてあるのに、マスコミによる記事には書かれていないという状況によって)、せっかくの研究結果がネガティブ(もしくは質が低い)と受け止められてしまうのは、研究者にとってはたまったものではないでしょう。

 

研究者からのプレスリリースのなかの「対照」についての記述というのは些細なことのように見えますが、実は研究内容の信頼性に関わる「勘所」です。このような勘所は、研究の世界にいないとなかなかつかみにくいものかもしれません。しかし、情報を正確に伝えるためには、このような「勘所」についてはきちんと把握しておいてもらいたいなと思います。

 

そして、マスコミが不十分な記述をしていたとしても、疑問に思った読者が、研究者自身の主張を直接確認できるようにすることも必要です。論文なりプレスリリースなりの、正確な一次ソース(リンク)を提示する、という事を徹底してほしいものだと思います。

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[ 2012/05/26 22:18 ] ひとりごと | TB(-) | CM(-)
 

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薬作り職人

Author:薬作り職人
十数年、新薬の研究に携わる研究者(薬理系)でした。2012年4月から、企画職として、新薬のアイデア作りなどの仕事に取り組むことになりました。

薬学生向けの季刊誌MILで、「名前で親しむ薬の世界」「薬作り職人の新薬開発日記」って言うコラムを連載してました。

観光地で売ってるミニ提灯集めてます。妻子持ち(2児の父)、嫁さんからぐうたら亭主と呼ばれます。


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