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過去の創薬を知り、未来の創薬を考えるー創薬科学入門 はてなブックマーク - 過去の創薬を知り、未来の創薬を考えるー創薬科学入門

「創薬科学入門」(佐藤健太郎 著)を読んだので、レビューがてら思うことを書いてみます。

 

 

 

 

著者の佐藤健太郎さんは、製薬企業研究員、東京大学広報担当特任助教を経て、現在はサイエンス・ライターとして活躍されています。

 

著者が製薬会社勤務時代から主宰するWebサイト「有機化学美術館」「有機化学美術館・分館」では、有機分子の美しいCG画像とともに、有機化学の世界の様々な話題をわかりやすく紹介されています(現在は、ブログ形式の分館の更新がメイン)。また、代表的な著書である「医薬品クライシス―78兆円市場の激震 (新潮新書) 」では、新薬開発停滞と医薬品特許切れに伴う売上低下「2010年問題」について、研究現場のリアルな光景を交えつつ、その原因と現状についてわかりやすい解説をされています。

 

「創薬科学入門」は、「創薬の世界では何が行われているのか」について、主に有機化学の切り口から取り上げています。つまり、「有機化学美術館」で取り上げられている学問の世界と「医薬品クライシス」で取り上げれている医薬品開発の世界をつなぐ作品、というわけです。

 

本のレベルとしては、大学初年度レベルの生化学、有機化学について基本的な知識はあることが前提とされています。しかし、文章自体は平易に書かれているので、製薬関連の研究者を目指す大学生への入門書としては、ピッタリの難易度と内容だと思います。

 

「創薬科学入門」は、創薬とはどのようなことかを解説した前半と、現在使用されている医薬品について解説した後半、新薬開発の成功例について開発者自身(久能裕子氏)が綴った最終章、の3部に分かれています。

 

前半で取り上げられている内容は、大きく分けると「薬はどのような過程を経て開発されるのか」「良い薬と評価されるための鍵とはなにか」「そのような薬を合成するためにどのような方法論や技術が用いられているか」の3点になります。後半と最終章は、「このような手法を用いて、これまでどのような医薬品が開発されてきたか」「リアルな開発現場はどのようなものか」について書かれた、前半部の応用編のような位置づけです。

 

本書では、多くの薬剤(巨大な売上高を記録した、ブロックバスターと呼ばれる薬たち)の開発事例が取り上げられています。創薬の基本的な方法論を学びつつ、「ブロックバスターを得るために、どのような工夫がなされたか」「ブロックバスターを得るためのセレンディピティ」などについても知ることができます。今まで製薬会社の研究所ではどんな事やってきたの?ということを知るためには、格好の題材が揃っています。

 

ただ、著者は、「単なる創薬技術・方法論の解説」や「創薬の成功例の紹介」のためだけにこの本を書いたわけではありません。筆者は、これまでの創薬の方法論を通覧した上で、「これからの創薬はこのままで良いのか」ということを提示したかったのではないかと思います(このあたりは、「ロレンツォのオイル」の稿と、あとがきにかかれています)。

 

(ここから先は、私の個人的見解)

この思いは、私を含めた創薬の現場の人間が、現在思っていることと一致しています。

 

この本で取り上げられている創薬技術や方法論は、1990年から2000年の間に「画期的新薬」として開発されてきたブロックバスターの創薬に用いられてきたものがほとんどです。これらの方法論は、確かに大成功を収め、多くの薬剤を世に送り出しました。

 

そして、2000年にはヒトゲノム解読が成し遂げられたことから、「これからどんどん見つかる新しい標的分子にたいして、1990年台にブレイクした方法論を用いれば薬はどんどん出てくるだろう」という楽観的な想定がされていた時代もありました。

 

しかし、その期待感は長くは続きませんでした。2000年から2010年にかけては、新薬が生まれない「創薬の停滞期」とも言える10年が訪れます。そんな中、現場の研究者たちは、現在の創薬の方法論に問題がある可能性、もしくは、創薬が目指すべき方向が間違っている可能性、について、すでに気づいています。

 

「これまでの方法論で、様々な要因が絡まり合って起こる難病にとりくむことができるのか」「これまでの方法論で何とか出来るにも関わらず、研究者が見逃している患者さんのニーズがあるのではないか」

 

これらのことについて必死に考えているというのが、創薬の世界の現状です。

 

創薬科学入門は、これらの現状を理解するために必要な基礎知識を得るためには格好の本です。しかし、書かれていることははあくまで「過去の総括」であり、この内容が未来永劫通用するわけではありません。

 

これからの創薬の世界は、過去とは全く違う方向に向かう可能性もあります。創薬の世界を志す学生さんは、このあたりを心して欲しいと思います。自分たちが飛び込む創薬の世界は、「これまでをベースにしつつも、違う方向へ向かわなくてはいけない」ということを意識し、未来の創薬を考えてみて欲しいと思います(自分への自戒も込めて)。

  

教科書にも採用されているとのことです。

 

 

有機化学美術館・分館:「創薬科学入門」が教科書に採用

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[ 2012/05/20 18:37 ] お薬作りの日記 | TB(-) | CM(-)
 

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薬作り職人

Author:薬作り職人
十数年、新薬の研究に携わる研究者(薬理系)でした。2012年4月から、企画職として、新薬のアイデア作りなどの仕事に取り組むことになりました。

薬学生向けの季刊誌MILで、「名前で親しむ薬の世界」「薬作り職人の新薬開発日記」って言うコラムを連載してました。

観光地で売ってるミニ提灯集めてます。妻子持ち(2児の父)、嫁さんからぐうたら亭主と呼ばれます。


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