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ハエの踊りと新薬開発。 はてなブックマーク - ハエの踊りと新薬開発。

新薬開発には、いろいろな基礎研究の結果が生かされています。今日は、そんな実例の1つを書いてみたいと思います。

現在、新薬開発における安全性評価の場面で、かならず登場するタンパク質があります。それは「hERGチャネル」と呼ばれるタンパク質で、新薬候補化合物の心臓に対する副作用の原因となることが知られています。

hERGチャネルは、心臓の筋肉細胞(心筋細胞)の表面にある「イオンチャネル」(細胞表面にある開閉するトンネルのようなもの)というタンパク質です。hERGチャネルは、イオンチャネルのなかでも、カリウムイオンを選択的に通す「カリウムチャネル」と呼ばれるものの一種です。

カリウムイオンは電気の運び屋なので、カリウムイオンがhERGチャネルを通過すると、心臓の電気活動が変化します。そのため、正常な状態においては、hERGチャネルは、心臓の電気活動によって引き起こされる規則的な拍動(心拍のリズム)をコントロールする重要な働きを担っています。

新薬候補化合物のなかには、hERGチャネルの働きを止めてしまうものがあることが知られています。このような化合物の一部は、ヒトに投与した時に心臓の働きを乱し、死につながる不整脈を起こすことがあります。

そのため、新薬候補化合物を人に投与する前には、hERGチャネルに対する化合物の作用を必ず調べる必要があるのです。

さて、このhERGチャネルが見つかったのは、実はショウジョウバエの研究がはじまりでした。1960年代、ショウジョウバエの研究をしているうちに、不思議な挙動をもつハエが見つかりました。このハエは、エーテルと言う麻酔薬を嗅がせると、まるで踊りを踊るように足を振るわせたのです。このハエを調べると、ある遺伝子に変化(変異)が起こっていることが分かりました。

「踊りを踊る」という特徴から、この変異遺伝子の名前は、その当時はやっていた、ゴーゴーというダンスにちなみ、ether-a-go-go(ether:エーテル、go-go:ゴーゴー)と名付けられました。この遺伝子からできるタンパク質は、カリウムチャネルとしての働きをもつことがわかったのですが、しばらくの間、応用研究には至りませんでした。

さて、この研究が再び脚光を浴びたのは、1990年代のことです。ヒトの遺伝病で、QT延長症候群と呼ばれるものがあります。QT延長症候群は、心電図の波形のQTと呼ばれる部分の長さが長くなる(QT延長)という特徴をもっていて、突然、死に至る不整脈を起こすことがあります。

QT延長症候群が遺伝するということで、この原因となる遺伝子の探索が行なわれました。その結果、一部のQT延長症候群の原因となるタンパクとして、ヒトの心臓でether-a-go-goと非常に良く似たタンパク質が見つかったのです。このタンパク質は、ヒト(human)のether-a-go-goということで、hERGと命名されました。hERGは、カリウムチャネルであることがether-a-go-goの研究から分かっており、このhERGチャネルに異常があると心臓に異常が起こることは、非常に納得が行くものでした。

ここで、もう1つ、製薬業界を悩ませていた問題が登場します。市場に出回っていた複数の薬に副作用としてQT延長症候群と似た不整脈(QT延長)を示すものが見つかったのです。これは、非常に大きな問題となり、薬の販売中止や、原因究明に向けての研究活動が始まりました。

ここで、hERGチャネルと新薬開発の出会いが起こります。QT延長を起こす化合物は、hERGチャネルの働きを止めてしまうことが、細胞レベルの実験で分かったのです。これは非常に大きな成果でした。QT延長を起こさない化合物を作るには、hERGチャネルに対する作用が弱い(もしくはもたない)化合物を作ればよいからです。

現在では、新薬を探す段階(スクリーニング)で、hERGチャネルに対する作用をもつかどうかを調べることが普通になりました。新薬開発において、hERGチャネルに対する作用を調べ、安全性を確認することは、国際的なガイドラインで定められています。

ハエの踊りと医薬品の安全性評価のつながりは、基礎研究が応用研究に役立つことの良い例であると思います。基礎研究は、いつ応用研究に適応できるか分かりません。基礎研究を大事にすることは、未来の私たちにとっての大きな貯金になることを忘れてはいけません。


追記:この記事は、「[発声練習] 異分野の成果があなたの分野の発展に役立った事例はありますか?」の一環として書きました。興味があれば、以下のリンク先も音連れて見てください。

[発声練習] 異分野の成果があなたの分野の発展に役立った事例はありますか?
http://d.hatena.ne.jp/next49/20091119/p1




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[ 2009/11/22 23:38 ] 薬の話 | TB(-) | CM(-)
 

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Author:薬作り職人
十数年、新薬の研究に携わる研究者(薬理系)でした。2012年4月から、企画職として、新薬のアイデア作りなどの仕事に取り組むことになりました。

薬学生向けの季刊誌MILで、「名前で親しむ薬の世界」「薬作り職人の新薬開発日記」って言うコラムを連載してました。

観光地で売ってるミニ提灯集めてます。妻子持ち(2児の父)、嫁さんからぐうたら亭主と呼ばれます。


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