
先日、糖尿病治療薬の新薬「ジャヌビア」(万有製薬、主成分シタグリプチンリン酸塩水和物)が、厚生労働省から製造承認をうけました。
ジャヌビアは、アメリカのメルク社が開発した薬で、DPP4阻害薬という全く新しい作用メカニズムをもつ薬です。海外ではすでに販売されており、アメリカだけでも1,600万人以上の患者さんに使用されています。日本でも、DPP4阻害薬は糖尿病治療薬のホープとして期待されています。
この「ジャヌビア」という名前ですが、「JANUS(ヤヌス、二つの顔を持つ神)」と「via(経由)」という2つの単語をつなげて命名されたそうです。
ヤヌスとは、ローマ神話に登場する「出入り口と扉の神」で、前後(過去と未来)を見ることができる2つの顔を持っています。英語で1月のことをJanuaryと言いますが、これは入り口の神であるヤヌスの名前に由来しています。一年の入り口、という意味なのですね。
さて、このヤヌスがどうして薬の名前に登場したのでしょうか。
私は万有製薬の社員じゃないので、本当のところはわかりません。しかし、ジャヌビアの作用メカニズムを調べてみると、なんとなく「ヤヌス」という名前を付けたくなった理由が分かるような気がします(以下は、私の勝手な推測です)。
ジャヌビアは体の中のDPP4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)という酵素タンパク質の働きを止める作用を持っています。DPP4は、血糖値のコントロールに関わるインクレチン(GLP-1;Glucagon-like peptide-1 とも言います)というホルモンを分解し、インクレチンの作用を消失させます。
インクレチンは、膵臓に働きかけ2つの作用を示します。
1)血糖値を下げる作用を持つホルモン、インスリンを分泌させる働き。インスリンは、全身の細胞に働きかけグルコース(糖)の利用量を高めたり、肝臓で作られるグルコースの量を減らすことで血糖値を下げます。
2)血糖値を上げる働きを持つグルカゴンというホルモンの分泌を減らす働き。グルカゴンは、肝臓に蓄えられているグルコースを血液中に放出して、血糖値を上げます。グルカゴンの量が減れば、血糖値は下がります。
ジャヌビアは、インクレチンの分解を止めるので、インクレチンの量を増やし、その働きを強めます。そのため、強い血糖降下作用を示すのです。
ジャヌビアは、血糖値の調節において正反対の働きを持つ2つのホルモン、インスリンとグルカゴンの量を調節することで効果を示します。この、「正反対の働きを持つ2つのホルモンを調節する」作用が、ジャヌビアのネーミング担当者に「二つの顔を持つ神」を想像させたのではないか、と私は思います。
薬の作用メカニズムにちなんだ薬の名前はいろいろあります。こういう薬の名前の由来を知ることで、薬がより身近な物になってくれるといいな、なんて思います。
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