薬作り職人のブログ
製薬会社研究者の視点から見たいろんな話。
ロペミン
生体内の情報伝達には、受容体と呼ばれるタンパク質が重要な役割を果たしています。同じ受容体に結合する薬であっても、受容体のある臓器が違うと、薬の作用は変わってきます。

今回紹介するロペミン(大日本住友、主成分 塩酸ロペラミド、薬価 1mgカプセル = 67.90円)は、下痢止めとして用いられています。実は、ロペミンの下痢止めのメカニズムは、モルヒネの鎮痛作用メカニズムと同じタンパク質を介したものです。ロペミンの下痢止めとモルヒネの鎮痛作用、一見関係なさそうですが、この二つはμ受容体というタンパク質で結ばれているのです。

モルヒネや生体内オピオイドペプチド(俗に脳内麻薬などと呼ばれるエンケファリン、エンドルフィンなど)など化合物は、オピオイド受容体というタンパク質に結合して、様々な生理作用を示します。中でも、モルヒネが結合するμ(ギリシア文字のミュー)受容体は、強い薬理作用を示します。モルヒネの強い鎮痛作用は、モルヒネによるμ受容体の活性化により、痛みの神経伝達が抑制されることで起こります。

で、ここからがロペミンの話になります。μ受容体の活性化により、痛みの神経伝達が抑制されると先ほど述べました。このμ受容体、痛みに関与するだけではないんです。μ受容体は、胃や小腸などの消化管にも存在します。そして、μ受容体は消化管の運動を調節しています。具体的には、μ受容体を刺激すると胃や小腸の自発運動(蠕動(ぜんどう)運動)が抑制されます。症状としては、便秘ですね。
ロペミンは、μ受容体を刺激する作用を持っています。そのため、下痢のときの活発な消化管運動を抑制し、下痢を止めるのです。モルヒネも同じメカニズムにより、便秘の副作用を持ちます。

では、なぜロペミンは鎮痛作用を持たないのか。この理由は簡単で、ロペミンは神経の中に入らないのです。鎮痛作用は、神経細胞での出来事なので、薬物が神経に入らなければ、何の作用も示しません。

このように、ロペミンは、消化管と神経との間の薬剤の分布の差を利用してつくられた薬ということになります。薬を作る上では、作用タンパク質の存在場所が非常に大きな役割を果たすという好例だと思います。


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