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薬作り職人のブログ

新薬のアイデアを考える人から見たいろんな話。

こういうネーミング好きだなぁ(キックリンの名前の由来) はてなブックマーク - こういうネーミング好きだなぁ(キックリンの名前の由来)

このブログでは、「薬の商品名の由来」について時々取り上げています。久々にインパクトがあるネーミングの新薬があったので、取り上げたいと思います。

 

その薬の名前は、キックリン(アステラス製薬、主成分 ビキサロマー)。2012年の6月に発売された薬で、慢性腎不全患者さんの高リン酸血症を治療するための薬です。高リン酸血症というのは、血液中のリン酸の量が増えることで、血管が詰まりやすくなったり、骨が弱くなったりする病気です。キックリンは、血液中のリン酸の量を減らすための薬です。

 

だいたい想像がつくと思いますが、キックリンの名前の由来は以下のとおりです。

 

Kik(効く)+lin(リン)から命名した 。

(アステラス製薬インタビューフォームより)

 

ストレートなネーミングですね。最初にキックリンという名前を見たときには、「キック = kick」 で、「リンを体から追い出す(蹴りだす)」っていう意味かと思いました。「効く」で「キック」とは、あまりに素直すぎて思いつかなかったです。はい。

 

リン酸は骨の原料である「リン酸カルシウム」の構成成分です。血液中のリン酸の量が多くなると、血液中でリン酸カルシウムができて血管にへばりついたり、カルシウム量のコントロールが上手く行かなくなって骨が弱くなります。これらの不都合を防ぐために、血液中のリン酸量は、ある一定の範囲内にコントロールされる必要があります。

 

健康な人では、リン酸は、腸から血液に吸収され腎臓から排泄され、血液内のリン酸量の釣り合いを取っています。慢性腎不全の患者さんは、腎臓の機能が低下しているため、体内に吸収されたリン酸が体外に排泄できません。そのため、血液中のリン酸の量が増え、高リン酸血症を発症します。

 

キックリンは、リン酸と結合しやすくかつ消化管から吸収されない性質を持っています。キックリンを服用すると、食物の中のリン酸がキックリンにくっつき、そのまま便として体外に排泄されます。そのため、血液中にリン酸が級数されにくくなり、血液中のリン酸量が増えずにすむ、というわけです。

 

キックリンの主成分であるビキサロマーは、「N,N,N',N'-テトラキス(3-アミノプロピル)ブタン-1,4-ジアミン」と「2-(クロロメチル)オキシラン」という2種類の分子が、非常に多くの数つながってできています。キックリンがリン酸を効率的にに捕らえることができるのは、「N,N,N',N'-テトラキス(3-アミノプロピル)ブタン-1,4-ジアミン」が、リン酸と結合する働きをもつる「アミノ基」という構造を多く含むからです。また、キックリンが消化管から吸収されないのは、ビキサロマーが非常に大きな分子であるため、水に非常に溶けにくくかつ消化管の細胞の中に入りにくいからです。

 

横文字由来のネーミングの新薬だらけの中、キックリンのようなストレートなネーミングには好感が持てます。


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[ 2012/11/03 09:24 ] 薬の名前の由来 | TB(-) | CM(-)

ザーコリとリリカの名前の由来 はてなブックマーク - ザーコリとリリカの名前の由来

先日、本ブログで「ザーコリ」と「リリカ」の2つの薬について紹介しました。

 

基礎科学を臨床試験に結びつけるー「ザーコリ」の場合 薬作り職人のブログ


線維筋痛症治療薬「リリカ」承認。薬作り職人のブログ

 

今日は、これらの薬の名前の由来を紹介します。

 

まず、ザーコリの名前の由来(ファイザー社、インタビューフォームより)

 

XALKORI 

X:染色体 ALK:ALK 融合遺伝子 ORI:オリジナル、最初

 

ザーコリは、一部の肺がんの細胞に発現する「ALK融合遺伝子」の働きを止めることで、がん細胞の増殖を止める薬です。ALK融合遺伝子は、「染色体転座」という染色体異常によって、2つの遺伝子(ALK遺伝子とEML-4遺伝子)のそれぞれの一部が結合し産生されます。ザーコリの名前の由来の中で、「X:染色体」とされているのは、染色体がアルファベットのXの形をしているからだと思われます。このXに、ALKをつなげ、さらに「世界初のALK阻害薬」という意味を込めたORI(original)をつなげることで、”XALKORI”という名前が生まれたというわけです。いろんな要素が組み合わさった、面白いネーミングだと思います。

 

2012 06 09 1857 Wikipedia 「染色体」より

 

次は、リリカの名前の由来(ファイザー社、インタビューフォームより)

 

QOL 改善のイメージが可能であり、読み、聞き、書いた場合に印象が良い言葉

「Lyric:叙情詩(Music)」、「Lyrical:叙情的な」を由来とする。

 

リリカは、広い範囲の痛みに対して鎮痛作用を示す薬剤です。リリカは主に、神経が障害されることで生じる痛み(神経障害痛)の患者さんに使われており、先日「線維筋痛症」の患者さんへの適応が承認されました。強い痛みは、患者さんの生活の質(Quality of life、略してQOL)を大きく低下させます。リリカは、痛みに苦しむ患者さんQOLを改善させることを目的として開発されました。

 

リリカの語源である"Lyric"という言葉は、叙情詩(作者の感情や情緒を表現した詩)を意味します。叙情詩は、「ギリシャの竪琴リラに合わせて歌う詩として発達した」(デジタル大辞泉)ところから"Lyric"と呼ばれるようになったようです。竪琴が奏でる音色と歌声を聞いていると、心が平穏になっていく、というイメージでしょうか。薬に求められているものをうまく表したネーミングだと思います。

 

Lyre1913 Wikipedia「ライアー」より

 

 


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[ 2012/06/09 20:22 ] 薬の名前の由来 | TB(-) | CM(-)

サラジェンの名前の由来ー唾液を出すための薬ー はてなブックマーク - サラジェンの名前の由来ー唾液を出すための薬ー

唾液は、一日に1~1.5リットル分泌され、様々な働きをしています。唾液に含まれるアミラーゼは食物中のデンプンを麦芽糖へと分解し消化の手助けをします。また、唾液は食物と混ざり合う事で、食物を飲み込みやすくします。唾液が分泌されることで、口の中の湿り気が保たれ、口の中の粘膜が保護されます。唾液は、口の中の汚れを洗い流すことで、口の中の清潔度を保つ働きもしています。

 

このように多様な働きをする唾液が出なくなると、生活に大きな支障をきたします。たとえば、頭部のガンに対する放射線治療では、唾液腺の細胞に障害が起こり、唾液が出にくくなります。また、シェーグレン症候群という病気においては、免疫機能の異常により、唾液腺の細胞が障害を受けて唾液が出にくくなります。水分補給で口を湿らせる程度で済む状況であれば良いのですが、唾液腺(口の中にある唾液を出す器官)の機能が異常に低下する状況では薬が必要となることがあります。

 

そのようなときに使われる薬がサラジェン(キッセイ薬品工業、主成分ピロカルピン塩酸塩)です。

 

サラジェンの名前の由来

唾液(Saliva)をうむ(Generation)薬剤の意味

(キッセイ薬品工業、インタビューフォームから)

 

SALAGENサラジェンの主成分、ピロカルピン塩酸塩

 

サラジェンは、ムスカリン受容体アゴニストというタイプの薬です。ムスカリン受容体は、神経から放出されるアセチルコリンという物質と結合すると活性化されます。活性化したムスカリン受容体は、ムスカリン受容体が存在する細胞に様々な作用を引き起こします。唾液腺にはムスカリン受容体が存在し、ムスカリン受容体が活性化されると唾液が分泌されます。

サラジェンは、アセチルコリンと同様、ムスカリン受容体を活性化させる作用を持っています。本来はアセチルコリンを内服すれば良いように思えるのですが、アセチルコリンは体内ですぐ分解してしまうので、内服には適しません。サラジェンには内服によって体内に吸収され、作用を示すことができます。

 

サラジェンの主成分であるピロカルピンは、ブラジル原産のミカン科の植物ヤボランジ(Pilocarpus jaborandi)から発見された物質です。日本では、1960年代から、目の病気である緑内障の治療用に点眼剤として使用されていました。ピロカルピンの緑内障に対する治療効果も、ムスカリン受容体の活性化を介したものです。

 

唾液の分泌にムスカリン受容体が関与することは古くから知られていました(ムスカリン受容体の働きを抑制する薬は口の渇きが出たりします)。しかし、それを唾液を分泌させる薬として使うというアイデアが実現されたのは、1990年代になってからのことです。薬としての素材はすぐそこにあったのですが、実際に患者さんに使用されるようになるにはだいぶ時間がかかりました。

 

サラジェンが生まれたのは、技術の進歩によるものではありません。「口の渇き」という、傍目にはそれほど大変そうに見えない(実は結構しんどい症状です)症状に対する薬を作らないといけない、という目的意識が生まれたことが一番の要因だと思います。命にかかわるような重大な病気以外にも、患者さんにとって必要とされる薬を作らなくてはいけない、ということに気づいて、初めてサラジェンのような薬が生まれるのです。


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[ 2012/05/08 22:50 ] 薬の名前の由来 | TB(-) | CM(-)

ジェネリック医薬品の名前のつけ方。 はてなブックマーク - ジェネリック医薬品の名前のつけ方。

今日は、病院に行って薬をもらってきました。

ちょっと皮膚のかゆみがひどかったので内服のかゆみ止めをもらいました。

薬の商品名は「アレルオフ」。
うーん、これは「アレルギーをオフにする」という意味だなぁと、見た瞬間にわかりました。この製品の主成分はエピナスチン。アレルギー反応によって起こる炎症の原因となるヒスタミンという物質の働きを止める作用を持ちます。

まさに、薬の効能をそのまま商品名にした、というかんじですね。

こういう直接的なネーミングは、昔のジェネリック医薬品によく見られます。ジェネリック医薬品というのは、「特許が切れた医薬品を他の製薬会社が製造或は供給する医薬品」(Wikipediaから)のこと。

ジェネリック医薬品は、開発費が非常に安く済むため、薬の値段は安くなります。画期的新薬の特許が切れると同時に、多くの種類のジェネリック医薬品が発売される光景は、よく見かけます。

このジェネリック医薬品の商品名は、昔は自由につけることができました。基本的に国内メーカーが製造することもあり、ダジャレ?を思わせる薬の名前が散見されます。患者さんやお医者さんに名前を覚えてもらおう、というインパクト狙いのネーミングかどうかはわからないですが。。

セキナリン (気管支喘息治療薬)「咳なし」より
ベンコール (下剤)薬効そのもの
ヨーデル (下剤)製薬会社はスイスのヨーデルらしいんですけどね、そのもの。でしょう。
グッドミン (睡眠薬)良好な睡眠から

しかし、ジェネリック医薬品については、現在このようなユニークなネーミングはできません。というのも、同一成分について多数の銘柄のジェネリック医薬品が存在すると、紛らわしい名称による薬剤の取り違えなどの問題が生じるため、ネーミングの仕方について一定の基準が出来たからです。

この基準は、厚生労働省の通達に基づいています(後発医薬品=ジェネリック医薬品です)。

「医療用後発医薬品の承認申請にあたっての販売名の命名に関する留意事項について」
http://www.rsihata.com/updateguidance/092205YSS0922001A.pdf

では、販売名のつけ方について「販売名の記載にあたっては、含有する有効成分に係る一般的名称に剤型、含量及び会社名(屋号等)を付すこと」と規定されています。

例えば、アクトス(主成分ピオグリタゾン)のジェネリック医薬品の場合だと
ピオグリタゾンOD錠15mg「トーワ」 (ODは口腔内崩壊錠)
ピオグリタゾンOD錠15mg「日医工」 
ピオグリタゾンOD錠15mg「サワイ」

等となります。

ジェネリック医薬品の場合、きちんとした成分名さえ特定できればよいので、このネーミング法自体はシンプルで良いと思います。ただ、薬剤の成分名は薬に馴染みがない人にとっては、ちょっと見た目が難しすぎるかなぁ、という気もします。

病院の窓口とかで、「現在、服用している薬は何ですか?」ときかれて「ピオグリタゾンです」という答がスラスラ出てくる光景はなかなか想像しにくいです(自分が患者の立場であっても)。

成分名の決め方については、WHO(世界保健機関)による別のガイドラインがあります。これはこれで、シタグリプチンとかビルダグリプチンとか、新しい薬になればなるほど読みにくくなってるような気がしています。これがジェネリック医薬品になった日には、どうなることやら。

こういう患者さん側から見たシチュエーションを想像すると、薬のネーミングというのは大事なんだよな、そして、とっても難しいもんだなと改めて思います。



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[ 2011/07/26 00:18 ] 薬の名前の由来 | TB(-) | CM(-)

イナビルの名前の由来ー新規インフルエンザ治療薬イナビル発売ー はてなブックマーク - イナビルの名前の由来ー新規インフルエンザ治療薬イナビル発売ー

本日、第一三共からインフルエンザ治療薬「イナビル」が発売されました。作用メカニズムは、よく知られているタミフルやリレンザと同じ、ノイラミニダーゼ阻害作用です。イナビルは、国内の製薬会社で開発され市場に投入された、はじめてのノイラミニダーゼ阻害薬となります。

インフルエンザウイルスが、感染細胞内で増殖したのち、細胞の外に出てくるためには、ノイラミニダーゼという酵素の働きにより、ウイルスと細胞膜が切り離される必要があります。ノイラミニダーゼ阻害作用をもつ薬物は、ウイルスが細胞膜から離れられなくすることで、ウイルスの他の細胞への感染を防ぎ、病状の進展を抑えます。

イナビルは、リレンザと同じ吸入薬。特製の吸入容器を使って、口から薬剤を吸い込み、インフルエンザウイルスがいる気道や肺に薬を到達させます。

イナビルの主成分、ラニナミビルオクタン酸エステル水和物は、気道や肺の細胞の酵素によりラニナミビルという化合物に変わります。

このラニナミビルは、肺や気管の中にとどまりやすい性質を持っており、一度投与するだけで4日以上肺の中にとどまり続けます。そのため、イナビルは一回投与するだけで十分な効果を発揮することが出来ます。

リレンザやタミフルは、症状が収まるまで何回も服用する必要がありました。インフルエンザは子どもに多い病気。

リレンザのような吸入剤は何回も子どもに服用させるのは大変です。タミフルの場合は、ドライシロップ剤にして飲みやすくする工夫はされていますが、それでも、子どもに何回も薬を飲んでもらうのは難しいものです。

というわけで、一回で速やかに効果を示すイナビルは非常に使いやすい薬だと言えます。

ちなみに、イナビルという商標名は、

「1 回吸入投与の1 を「I」とし、ノイラミニダーゼ(NA)阻害剤の「NA」に続き、ウイルスの「VIR」をあわせて名称の由来とした」

とのことです。

イナビルの「ナ」と「ビル」の由来については、想像が付いていたのですが、「イ」が1回の1というのは、思いつきませんでした。

薬の名前ファン?としては、「日本発の薬剤」ということで「いっかいのイ」だったら、もっと良かったのにな、なんて、余計なことを思ったりもしてしまうのでした(海外での発売まで考えて、数字を選んだのかも知れませんが)。




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[ 2010/10/19 21:56 ] 薬の名前の由来 | TB(-) | CM(-)
 

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薬作り職人

Author:薬作り職人
十数年、新薬の研究に携わる研究者(薬理系)でした。2012年4月から、企画職として、新薬のアイデア作りなどの仕事に取り組むことになりました。

薬学生向けの季刊誌MILで、「名前で親しむ薬の世界」「薬作り職人の新薬開発日記」って言うコラムを連載してました。

観光地で売ってるミニ提灯集めてます。妻子持ち(2児の父)、嫁さんからぐうたら亭主と呼ばれます。


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